海と共に生きる日立駅

冬になると空気が澄んで空が高くなり、そんな空を見ていると思わず旅に出たくなる。こんな空の中で見る雨晴海岸から海越しの北アルプスは爽快だろうなぁとか、姨捨の棚田の夕焼けは最高だろうなぁとかいつも考えている。そんな僕の旅先リストは無限にあるけど最近その中でもかなり先頭の方に日立駅というところがある。

日立駅はいわゆる海に近い駅で知られるスポットだ。今までにも日本全国の海に近い駅はいくつも訪れたがそれら全ての駅は田舎にある静かな駅というノスタルジックな印象の場所ばかりだった。

 

 

写真は過去に行った海に近い駅で有名な愛媛県にある下灘駅。

しかし日立駅はそれらとは異質で近代的でハイセンスなデザインである。僕は日立駅から見る朝焼けを一度は拝んでみたいと思っていたが冬晴れの空が連日続いた事が引き金になってある日の夜突然出発を切り出した。

出発を決意した日の夜中2時頃に都内を車で出て日立駅へ向かった。終電の電車で向かうか迷ったが電車だと朝日まで外で時間を潰すことになりそうなので車にした。

 

 

朝の5時頃に到着して夜の空に浮き上がる日立駅を見た。突き出た透明の箱が宙に浮いているようで空と一体化してしまいそうな様子はとても不思議だ。透明の箱を支える円柱はル・コルビジェの建築でよく見るピロティに似た印象もある。

 

 

駅舎内はすでに開いていてあらかじめスポットをチェックして駅舎内の最も有名な撮影スポットに着いた。ワイドな窓から覗く暗闇の海はまるで上映前の映画館だ。真っ暗なスクリーンを前にして上映を待つような期待を感じた。

一度車に戻って日の出を待った。日の出は6時半頃の予測だ。1時間少し仮眠をしたが疲労がすごくて瞬きをするぐらいの一瞬で時間は経っていた。すぐに駅舎の中に入ると先程の真っ暗な海とは一変して水平線の向こうの微かな光に彩られているのがわかった。

 

 

少しずつ日が駅を照らして赤みを増す景色が最高にドラマチックだ。

 

 

外から駅舎を覗いてみた。朝焼けの空に浮いている透明の不思議な箱はまだ眠いと言わんばかりに空色に染まりきれていない印象があった。

 

 

駅舎内のシンプルな空間に一際存在感を放っているピアノ。海のスクリーンを背景に演奏できるこの演出はどこのコンサートホールにも勝るのではないか。

 

 

空と海と駅舎のフロアはもはや境目がないかのような一体感。まるで空と海と駅が一色の空間で繋がった様な不思議な場所だった。海に近い事を利点としてデザインされた日立駅は海に近い駅ではなく海と共に生きる駅の様に感じた。今日も海と空の狭間に駅はぷかぷか浮かぶ。

 

 

冬になると空気が澄んで空が高くなり、そんな空を見ていると思わず旅に出たくなる。雲一つない空色のキャンパスに感動の記憶を描く様に。